回転系の運動方程式と慣性モーメントを導出します。この記事では、 行列をスカラーと同一視し、ベクトルの内積 を と書きます
回転行列
回転の運動は 回転系で記述するのが自然な方法でしょう。しかし、慣性系から回転系に移れば ベクトル量である位置,速度,加速度はそれぞれ変換を受けます。これら 次元ベクトルの回転変換は、次の条件を満たす の回転行列 をかけてなされます
ただし、 は 次元の単位行列です
※ 行列式をとれば となりますが、この記事では 反転を含む変換 は考えません
説明
回転変換は、任意のベクトル の大きさとその間の角度を変えないため、内積を変えない変換です。そこで、回転変換後のベクトルを とおいて内積をとれば
となります。これが任意の について成り立つので を得ます。また、これに左から ,右から をかければ を得ます
なお、正確には 内積を変えない変換には反転も含まれ、回転と合わせて直交変換と呼ばれます。行列式は ですが、反転を含まない回転変換が です。それは、任意の回転は 恒等変換(無回転)からの無限小回転の連続で与えられ、行列式の値が から に飛び越えようがないためです
速度の回転変換
慣性系における位置ベクトルを ,これを回転系に移したものを と置きます。適当な直交行列 をもって
と表せます。両辺を時間で微分すれば
ここで が初登場しましたので、自然な発想として 直交行列の性質 の時間微分を調べてみる気になります。すると
より
を得ます。そこで と置くと、これは歪対称行列になっています
の表式の両辺に をかけて を消去すれば
慣性系における速度 は、回転系での見かけの速度 と 座標の回転に由来する速度 の和に変換されます
について補足
は角速度を表す行列です。このことは の成分を考えると分かりやすいでしょう。先ず 歪対称行列 は適当な実数 をもって
と表されます。これを にかければ
となり、結果はベクトルの外積のような形をしています。事実、 とおけば
このように 歪対称行列は ベクトルの外積の形で書かれます:こういったベクトルを特に軸性ベクトルと呼びます。 は 位置ベクトル と外積をとって速度となりますから、これは角速度ベクトルそのものです。
次に、外積を使わずに考えてみます。先ず を次のように分けます
の定義より ですから、時刻 における回転行列 は 微小時間 の一次近似で
となります。そこで での 軸まわりの回転角(右ねじの向きを正とします)を などと書けば
それぞれ 軸まわりの微小回転(右ねじ)を表していることが分かります。ゆえ は 任意の微小回転を表し、 は の極限で角速度を表します
回転系の運動方程式
加速度の表式を得るため、先に得た 速度の回転変換の式をさらに時間微分します
左辺第2項の速度 の項が邪魔ですから、再び速度の回転変換の式を使って これを消去します
もとの式に戻して整理すれば、加速度の回転変換の表式を得ます
回転系での加速度の項 について解き、質量 をかければ回転系の運動方程式を得ます
右辺第1項は、質点に作用する力を回転系で見たものです。第2項からは全て見かけの力で、それぞれ順に遠心力,コリオリ力、オイラー力と呼ばれます。この内、遠心力は回転系で必ず現れる力です。他方、コリオリ力は 質点が回転系で静止する場合 ,オイラー力は 等角速度系の場合 には現れない力です
ベクトル表記するには、 を で置き換えます。ついでに 質点に作用する力を回転系で見たものを とおいて
慣性モーメント
運動量 は 慣性質量 と速度 の積で定義されます。これに倣い、角運動量 を 慣性モーメント と角速度 の積の形で表します。まず、 の式をできるところまで変形します
先ほど確認したように、ベクトルの外積(ここでは )は 歪対称行列 で表されます。その成分は の成分と同様に考えて
ですから、慣性モーメント は
となります。
なお、同じことですが、歪対称行列 を経ずに ベクトル三重積 を直接計算して導くこともできます。アインシュタインの縮約記法を使えば、三重積の 成分 は
ただし、 等はレヴィ=チヴィタのイプシロン、 等はクロネッカーのデルタです。途中式の の中で縮約公式を用いています。右辺は と書けますので、結局ベクトル三重積は
を乗じて を得ます
さて、外力 は 運動量 を時間変化させます
では、角運動量は 何によって時間変化するのでしょうか。角運動量を時間微分すれば
右辺に現れた 位置ベクトルと外力の外積 は トルクと呼ばれます。すなわち、角運動量はトルク により時間変化します。特に、慣性モーメント が時間変化しないような座標をとれば
となり、並進の運動方程式と対称的な形式が導かれます