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ベルトランの定理(Bertrand's theorem)

ベルトランの定理の論文(英訳版)を読み、自分なりに理解したところをまとめました。

Santos, F. C.; Soares, V.; Tort, A. C. (2011). “An English translation of Bertrand's theorem”. Latin American Journal of Physics Education 5 (4): 694–696.


ベルトランの定理

中心力ポテンシャル  V(r) に束縛された質点の運動について、質点が必ず安定な閉軌道を描くような  V(r) の形は 次の2つに限られます

  1. 万有引力型:  V(r)\propto -r^{-1}
  2. 等方調和振動子型:  V(r)\propto r^2

証明の準備

2つの保存量

質点の軌道は、ポテンシャル中心を含む1つの平面上におさまります: 質点は この平面に垂直な力を受けないためです。そこで、ラグランジアン  \mathcal{L} を 平面極座標  (r,\vartheta) を使って表します。まず、速度  \dot{\mathbf{r}} の表式は

 \displaystyle
\dot{\mathbf{r}} = \frac{\partial\mathbf{r}}{\partial r}\dot{r} + \frac{\partial\mathbf{r}}{\partial\vartheta}\dot{\vartheta} = \left|\frac{\partial\mathbf{r}}{\partial r}\right|\dot{r}\mathbf{e}_r + \left|\frac{\partial\mathbf{r}}{\partial\vartheta}\right|\dot{\vartheta}\mathbf{e}_\vartheta

なので、そのノルム自乗は 基底  \mathbf{e}_r, \mathbf{e}_\vartheta の直交性から

 \displaystyle
\dot{\mathbf{r}}^2  = \left|\frac{\partial\mathbf{r}}{\partial r}\right|^2\dot{r}^2 + \left|\frac{\partial\mathbf{r}}{\partial\vartheta}\right|^2\dot{\vartheta}^2

ここで、 \mathbf{r}極座標表示は

 \displaystyle
\mathbf{r} = r(\cos\vartheta\mathbf{e}_r+\sin\vartheta\mathbf{e}_\vartheta)

ですから、運動エネルギーは

 \displaystyle
\frac{M}{2}\dot{\mathbf{r}}^2  = \frac{M}{2}\left(\dot{r}^2 + r^2\dot{\vartheta}^2\right)

となり、ラグランジアン  \mathcal{L} の表式は

 \displaystyle
\mathcal{L}  = \frac{M}{2}\left(\dot{r}^2 + r^2\dot{\vartheta}^2\right) - V(r)

  さて、この表式から 2つの保存量が明らかになります。第1に、時刻  t に陽に依存しないことから 全エネルギー

 \displaystyle
E  = \frac{M}{2}\left(\dot{r}^2 + r^2\dot{\vartheta}^2\right) + V(r)

が保存します。第2に、 \vartheta が循環座標となっていることから 角運動量

 \displaystyle
L  = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial\dot{\vartheta}} = Mr^2\dot{\vartheta}

が保存します。

軌道の方程式

ラグランジアンが得られたので オイラーラグランジュ方程式を解いても良いですが、いま興味があるのは質点の軌道であって、時間発展を考える意味はありません。 r \vartheta 依存性、 \mathrm{d}r/\mathrm{d}\vartheta の式が与えられれば十分です。そこで、前項で求めた2つの保存量を  \dot{r}, \dot{\vartheta} について解き

 \displaystyle
\dot{\vartheta} = \frac{L}{Mr^2}\\ \dot{r} = \pm\sqrt{\frac{2}{M}\left(E-V(r)\right)-\frac{L^2}{M^2r^2}}

軌道の方程式(ビネ方程式の変形)

 \displaystyle
\frac{\mathrm{d}r}{\mathrm{d}\vartheta} = \frac{\dot{r}}{\dot{\vartheta}} = \pm r^2\sqrt{\frac{2M\left(E-V(r)\right)}{L^2}-\frac{1}{r^2}}

を得ます

ポテンシャル中心から 近点と遠点とを見込む角

閉軌道をたどると、中心からの距離が極小となる近点,極大となる遠点が交互に現れます。そこで、隣り合う近点・遠点の1組に注目し、ポテンシャル中心から2点を見込む角を  \varphi とおきます。すなわち

 \displaystyle
\varphi = \int_0^\varphi\mathrm{d}\vartheta = \int_{r_0}^{r_1}\frac{\mathrm{d}r}{\mathrm{d}r/\mathrm{d}\vartheta} = \int_{r_0}^{r_1}{\frac{1}{\sqrt{\frac{2M\left(E-V(r)\right)}{L^2}-\frac{1}{r^2}}}\frac{\mathrm{d}r}{r^2}}

ただし、近点  r=r_0 の方位を  \vartheta=0 とし、遠点  r=r_1 の方位を  \vartheta=\varphiとしています。 r区間  0\lt\vartheta\lt\varphi で単調増加しますから、 \mathrm{d}r/\mathrm{d}\vartheta の復号は  + をとります
積分 \mathrm{d}r/r^2 に注目しますと、 z=1/r と変数変換したくなります。そこで、 \varpi(z) = -V\left(1/z\right) とおくと

 \displaystyle
\varphi = \int_\alpha^\beta{\frac{\mathrm{d}z}{\sqrt{\frac{2ME}{L^2}+\frac{2M\varpi(z)}{L^2}-z^2}}}

積分区間 \alpha, \beta は、それぞれ 遠点,近点の中心からの距離の逆数  1/r_1, 1/r_0 です。ここで  h = 2ME/L^2 1/k^2=2M/L^2 とおけば 元論文の式 (3) の右辺を得ます

安定な閉軌道とは

『安定な』閉軌道とは、先に求めた軌道の方程式を満たしながら 連続変形させたとき、閉軌道のままであるような軌道です。結論を先に言いますと、閉軌道の条件は「近点と遠点とを見込む角  \varphi が 円周率  \pi有理数  m 倍であること」,さらに安定である条件は「 m が軌道の連続変形に依らない定数であること」です

閉軌道の条件

中心力を受けて運動する質点の軌道  r=r(\vartheta) は、軌道上に  \mathrm{d}r/\mathrm{d}\vartheta=0 となる点( \vartheta=0 とします)があれば、その点とポテンシャル中心とを結ぶ直線について線対称  r(\vartheta)=r(-\vartheta) になります。それは、軌道の方程式が  \vartheta に依存しないことから明らかです。
  さて、閉軌道について考えます。先に考えた 隣り合う近点  (\vartheta=0)・遠点  (\vartheta=\varphi) の組に注目すると、軌道が 遠点とポテンシャル中心とを結ぶ直線について線対称であることから、 \vartheta=2\varphi の点が また近点  (r=r_0) でなければなりません。同様にして、 n を整数として  \vartheta=2n\varphi は近点, \vartheta=(2n-1)\varphi は遠点となります。もし  \varphi \pi有理数倍でなければ、これらの近点・遠点はすべて一致せず、軌道をどれだけ たどっても閉じることはありません。
  したがって、閉軌道の条件は「近点と遠点とを見込む角  \varphi が 円周率  \pi有理数  m 倍であること  (\varphi=m\pi)」です。

安定な閉軌道の条件

軌道を連続変形させれば、 m は連続的に変化するでしょう。ところが、『有理数  m無理数を通過しないと別の有理数  m' になれない』ので、安定な閉軌道であるためには  m は軌道の連続変形に依らない定数でなければなりません。『』の事実は、例えば2つの有理数  m, m' 1:\sqrt{2} に内分する数  x を考えれば分かります

 \displaystyle
x = \frac{m\sqrt{2}+m'}{\sqrt{2}+1} = (2m-m')+\sqrt{2}(m'-m)

右辺の第1項は有理数,第2項は  m\neq m' より無理数なので、 x無理数です。 x m, m' の間にありますから、  m' をどう選んでも無理数  x を通過することになります
  したがって、安定な閉軌道の条件は「 m が軌道の連続変形に依らない定数であること」です

証明

証明の準備から、安定な閉軌道が満たす方程式は 元論文の式 (3) の通りです。そして、 z=\alpha, \beta \mathrm{d}r/\mathrm{d}\vartheta=0 となることから、定数  h, 1/k^2 \alpha, \beta の式で置き換えて 式 (4) を得ます(分母の平方根の最後項の  z^3 は恐らく  z^2 の誤植です。この記事では  z^2 と考えます)
  任意の中心力ポテンシャル  V(r)(あるいは  \varpi(z))について、円軌道は 軌道の方程式を満たします。そこで、円軌道を微小変形した軌道が閉軌道である場合を考えます。 \alpha, \beta の差は微小なので、次の  u, \gamma は微小量です

 \displaystyle
u = \beta - \alpha \\ \gamma = z - \alpha

式 (4) の分子・分母を これら2つの微小量で展開し、それぞれ主要項を求めます。分子は 元論文の通り  \sqrt{u\varpi'(\alpha)} です。分母は 低次の項がことごとくキャンセルするため、3次まで展開する必要があります。詳しくは次の通りです(簡単のため、引数  \alpha を省略して  \varpi(\alpha) \varpi と表記します)

 \displaystyle
\begin{aligned}
\alpha^2\varpi(\beta) &= \alpha^2\varpi+\alpha^2\varpi'u+\frac{1}{2}\alpha^2\varpi''u^2+\frac{1}{6}\alpha^3\varpi^{(3)}u^3 + \cdots \\ -\beta^2\varpi &= -\alpha^2\varpi-2\alpha\varpi u -\varpi u^2 \\ (\beta^2-\alpha^2)\varpi(z) &= (2\alpha u+u^2)\left(\varpi+\varpi'\gamma+\frac{1}{2}\varpi''\gamma^2+\cdots\right) \\ &= 2\alpha\varpi u + \{2\alpha\varpi'u\gamma+\varpi u^2\} + \{\alpha\varpi''u\gamma^2+\varpi'u^2\gamma\} + \cdots \\ -z^2\{\varpi(\beta)-\varpi\} &= -(\alpha^2+2\alpha\gamma+\gamma^2)\left(\varpi'u+\frac{1}{2}\varpi''u^2+\frac{1}{6}\varpi^{(3)}u^3+\cdots\right) \\ &= -\alpha^2\varpi'u-\left\{\frac{1}{2}\alpha^2\varpi''u^2+2\alpha\varpi'u\gamma\right\}-\left\{\frac{1}{6}\alpha^2\varpi^{(3)}u^3+\alpha\varpi''u^2\gamma+\varpi'u\gamma^2\right\}+\cdots
\end{aligned}

上記を足し合わせると 2次以下の項がすべてキャンセルして

 \displaystyle
\alpha^2\varpi(\beta)-\beta^2\varpi+(\beta^2-\alpha^2)\varpi(z)-z^2\{\varpi(\beta)-\varpi\} \sim u\{\varpi'-\alpha\varpi''\}(u\gamma-\gamma^2)

あとは、これらを式 (4) の分子分母に代入し、 z \gamma に変数変換して積分を実行します

 \displaystyle
m\pi = \sqrt{\frac{\varpi'}{\varpi'-\alpha\varpi''}}\int_0^u{\frac{\mathrm{d}\gamma}{\sqrt{u\gamma-\gamma^2}}} = \sqrt{\frac{\varpi'}{\varpi'-\alpha\varpi''}}\pi

すると、元論文にある  \varpi微分方程式が得られます。対数微分の形をしていますから、すぐに解  \varpi が求まります。 \alpha は任意なので  z で置き換えて良いでしょう。すなわち

 \displaystyle
\varpi(z) = A \frac{z^{2-1/m^2}}{2-\frac{1}{m^2}} + B

 A, B積分定数です。ここで求まった  \varpi(z) を 再び 式 (4) に代入して 式 (6) を得ます
  最後に  1/m^2-2 の正負で場合分けし、 \alpha, \beta の適当な値を代入すれば、 m の値が1つずつ求まります。 V(r) に戻せば

ベルトランの定理が示されました

疑問点

証明の最後で 理解できていない点が2つあります。

  1.  \alpha=1, \beta=0 を代入している点。 \alpha, \beta は それぞれ中心から遠点,近点までの距離の逆数なので  \alpha\lt\beta となる筈であり、矛盾しているように思われます
  2.  \alpha=0 \beta=0 を代入している点。 \alpha, \beta は中心からの距離の逆数ですから、その値が  0 になるのは無限遠 r\uparrow\infty です。これは有界な軌道を考えていることに 矛盾しているように思われます

まだ理解に時間がかかりそうです。解決したら追記します

終わりに

定理の逆として、万有引力型と等方調和振動子型のポテンシャルのもとで 質点が安定な閉軌道を描くことは 容易に示されます。どちらの場合も 質点は楕円軌道を描き、前者では その焦点の1つが,後者では その中心が ポテンシャル中心となります。それぞれ、導出された  m の値と整合しています