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高校物理再考 力学1


物理の知識を整理するため、まず高校物理の力学の内容を振り返ってみました。このページの目的は飽くまで自分の理解/無理解を明確にすることですから、ここでは持って回った表現を避け、あえて「〇〇とは△△のことだ」などと断言する形を採っています。「誤りと分かった時点で修正すれば良い」というスタンスですので、まかり間違えて(?)この過疎ログを訪れてしまった方は、以下の内容をどうか信用なさらないようお願いします

物理学とは

かつて物理学者ガリレオ・ガリレイは、「自然という書物は数学の言葉で書かれている」と言いました。このガリレイのテーゼを是とすれば、自然界のあまねく現象は「数学界」において完璧に再現され、そこでは計算によって全てを知れることになります。物理学とは、数学を介して自然現象の本質を理解しようとする試みの総称です
  物理学の諸理論は「自然現象を描写する数学はこういうものだ」という解釈(指導原理と言います)を与えた後、数学により構築されます。指導原理の与え方は自由ですが 自然現象の本質を突く物理学の理論は次の要件を満たさねばなりません

  • 指導原理が簡潔である
  • 広範な自然現象の観測事実を正確に描写する

こうした理論に 力学、熱力学、電磁気学、・・・等々があり、高校物理ではその基礎を学びます

力学とは

力学は 物理学者アイザック・ニュートンが創始した理論体系です。ニュートンの運動3法則(&万有引力の法則)を指導原理とし、質量を持つ一般の物体(ボール、車、惑星、・・・等々)の運動を統一的に描写します。ここでは先ず理論の背景知識をまとめ、最後にニュートンの運動3法則に触れます

絶対時間・絶対空間

ニュートンは、時間の流れと空間の広がりは全宇宙で一様であり、また互いに独立して存在すると考えました:これを絶対時間・絶対空間と呼びます。そして「物体の運動」とは「物体の位置が 絶対時間の経過とともに絶対空間の中を移動すること」であると捉え、物体の運動が満たすべき法則を定式化しました

観測者

物体の運動を数式で記述するためには、まず物体の位置を指定するための座標系を置かねばなりません。この座標系を 特に観測者と呼びます。観測 ”者” という言葉から 物体の運動を観測する ”人間” をイメージしても良いですが、その場合、観測者は究極のジコチューであることに気を付ける必要があります。例えば、歩いている観測者ならば「自身は静止していて世界が後ろに動いている」と考えますし、回転している観測者ならば「自身は静止していて世界が逆に回転している」と考えます。つまり、観測者は常に 自身が絶対的に静止していると考えます。それゆえ、いち物体の運動を記述するために 同時に複数の観測者を考えることは通常ありません。観測同士がカチ合うからです

慣性の法則

物体に作用する力の合計(合力)がゼロのとき、物体が静止ないしは等速直線運動(まとめて慣性運動と呼びます)を続けるならば、慣性の法則が成り立っていると言います。慣性の法則は、観測者の選び方によっては 必ずしも成り立ちません。そこで、慣性の法則が成り立つように選んだ座標系のことを 特に慣性系と呼びます

加速度運動

慣性運動以外の運動を、加速度運動と呼びます。加速度運動では、速度が時々刻々と変化するため「きはじの法則」を使うことができません。そこで、速度を位置  \vec{r} の時間微分として再定義します

 \displaystyle
\dot{\vec{r}}=\frac{\mathrm{d}\vec{r}}{\mathrm{d}t}

この様に「時間微分を上付きドットで表す方法」を、ニュートン記法と呼びます
さらに、加速の度合いを表す量として加速度

 \displaystyle
\ddot{\vec{r}}=\frac{\mathrm{d}\dot{\vec{r}}}{\mathrm{d}t}

を導入します。加速度  \ddot{\vec{r}} を時間積分すると速度  \dot{\vec{r}}、さらに時間積分すると位置  \vec{r} が求まります。不定積分を行う度に積分定数がつきますが、速度につく積分定数を初期速度(初速)、位置につく積分定数を初期位置と呼びます

ニュートンの運動3法則

質量を持つ一般の物体の運動は、次の法則に従います。

  • 第1法則: 慣性系の存在

  • 第2法則: 運動方程式

    • 慣性系において、物体は受けた力  \vec{F} に比例する加速度  \ddot{\vec{r}} を得る
     \displaystyle
m\ddot{\vec{r}} = \vec{F}
    • 比例係数  m は物体に固有の量であり、これを(慣性)質量と呼ぶ。質量が大きいほど加速されにくい
  • 第3法則: 作用・反作用の法則

    • 慣性系において、2つの物体が接触して互いに力を及ぼす時、一方の力は他方の力と同じ大きさで、逆を向き、同一直線上にある

力学の問題を解く

力学の問題を解くとは、物体の位置  \vec{r} と速度  \dot{\vec{r}} を時刻  t の関数として求めることです。ここでは幾つかの例題を解きます。基本的な流れは次の通りです:

  1. 慣性系と時刻  t=0 とを定める(どう定めても良い)
  2. 運動方程式を立てる
  3. 運動方程式を解いて 位置  \vec{r}(t) および 速度  \dot{\vec{r}}(t) を得る

以下、重力加速度を  g と表記します。また、特に断らない限り空気抵抗や摩擦は考えないものとします

自由落下

  • 問: 質量  m の小球を空中で静かに放したとき、その後の小球の運動を求めよ

  • 答:

    1. 小球の運動は直線的だから、座標は1次元で十分( \vec{r}=x)。そこで、小球を放す位置を  x=0、時刻を  t=0 とし、鉛直下向きに  x 軸を定める

      自由落下

    2. 小球に作用する力は鉛直下向き( x 軸正方向)の重力  mg のみだから、運動方程式

       \displaystyle
m\ddot{x} = mg

      すなわち  \ddot{x} = g である

    3. 一度積分して速度

       \displaystyle
 \dot{x}(t) = gt + v_0
      を得る。ここで  v_0 は初速(積分定数)だが、問題の条件「静かに放す」より  \dot{x}(0)=v_0=0 である。よって

       \displaystyle
 \dot{x}(t) = gt

      次に、再度積分して位置

       \displaystyle
 x(t) = \frac{1}{2}gt^2 + x_0

      を得る。ここで  x_0 は初期位置(積分定数)だが、1. で自分でおいた座標の設定から  x(0) = x_0 = 0 である。よって

       \displaystyle
 x(t) = \frac{1}{2}gt^2

斜面の降下

  • 問: 質量  m の小球を傾斜角  \theta の斜面に静置した時、その後の小球の運動を求めよ

  • 答:

    1. 小球の運動は直線的だから、座標は1次元で十分( \vec{r}=x)。そこで、小球を静置する位置を  x=0、時刻を  t=0 とし、斜面に沿って下向きに  x 軸を定める

      斜面の降下

    2. 小球に作用する力は重力  mg のみ(正確には斜面から抗力も受けるが、 x 軸方向の運動には関係ない)で、その  x 軸方向成分は  mg\sin\theta である。よって、運動方程式

       \displaystyle
m\ddot{x} = mg\sin\theta

      すなわち  \ddot{x} = g\sin\theta である

    3. 一度積分して速度

       \displaystyle
 \dot{x}(t) = (g\sin\theta)t + v_0
      を得る。ここで  v_0 は初速だが、問題の条件「静置する」より  \dot{x}(0)=v_0=0 である。よって

       \displaystyle
 \dot{x}(t) = (g\sin\theta)t

      次に、再度積分して位置

       \displaystyle
 x(t) = \frac{1}{2}(g\sin\theta)t^2 + x_0

      を得る。ここで  x_0 は初期位置だが、座標の設定から  x(0) = x_0 = 0 である。よって

       \displaystyle
 x(t) = \frac{1}{2}(g\sin\theta)t^2
  • 念のため、極端な場合を考えてみる

    •  \theta = 0 deg の時、斜面は水平面になる。この時、 x(t) = 0、つまり小球は初期位置に静止する。これは直観にあっている
    •  \theta = 90 deg の時、斜面は絶壁(鉛直)になる。この時

       \displaystyle
  x(t) = \frac{1}{2} gt^2
      これは先の自由落下の結果と一致し、整合性がとれている

斜方投げ上げ

  • 問: 質量  m の小球を仰角  \theta、初速  v_0 で投げ上げた時、その後の小球の運動を求めよ

  • 答:

    1. 小球の運動は平面的だから、座標は2次元で十分( \vec{r}=(x,y))。そこで、小球を投げ上げる位置を  (0, 0)、時刻を  t=0 とし、水平方向に  x 軸、鉛直上向きに  y 軸を定める

      斜方投げ上げ

    2. 小球に作用する力は鉛直下向き( y 軸負方向)の重力  m\vec{g}=(0, -mg) のみだから、運動方程式

       \displaystyle
m\ddot{\vec{r}} = m\vec{g}
      すなわち  \ddot{\vec{r}} = \vec{g} である。成分ごとに分けて書けば

       \displaystyle
 \ddot{x} = 0\\
 \ddot{y} = -g
    3. 成分ごとに分けて解く。なお、初速の  x 成分は  v_0\cos\theta y 成分は  v_0\sin\theta であることに注意する

      •  x 成分:
        一度積分して速度

         \displaystyle
 \dot{x}(t) = v_0\cos\theta

        を得る。また、再度積分して位置

         \displaystyle
 x(t) = (v_0\cos\theta)t + x_0

        を得る。ここで  x_0 は初期位置だが、座標の設定から  x(0) = x_0 = 0 である。よって

         \displaystyle
 x(t) = (v_0\cos\theta)t

      •  y 成分:
        一度積分して速度

         \displaystyle
 \dot{y}(t) = -gt + v_0\sin\theta

        を得る。また、再度積分して位置

         \displaystyle
 y(t) = -\frac{1}{2}gt^2 + (v_0\sin\theta)t + y_0

        を得る。ここで  y_0 は初期位置だが、座標の設定から  y(0) = y_0 = 0 である。よって

         \displaystyle
 y(t) = -\frac{1}{2}gt^2 + (v_0\sin\theta)t
  • ついでに、 x y の関係式を求める。3. で得られた結果から媒介変数  t を消去することで得られ、これを軌跡と呼ぶ。 x(t) の式を  t について解いたものを  y(t) の式に代入すれば

     \displaystyle \begin{align}
 y &= -\frac{1}{2}g(x/v_0\cos\theta)^2 + (v_0\sin\theta)(x/v_0\cos\theta) \\ &= -\frac{g}{2(v_0\cos\theta)^2}\left(x-\frac{v_0^2\sin\theta\cos\theta}{g}\right)^2 + \frac{(v_0\sin\theta)^2}{2g}
 \end{align}

    これは、頂点  (v_0^2\sin\theta\cos\theta / g, (v_0\sin\theta)^2 / (2g)) で、上に凸の放物線である

単振動

  • 問: ばね定数  k のばねに質量  m の小球を吊るす。小球を引っ張り、つり合いの位置から  A だけずれた所で静かに放した時、この後の小球の運動を求めよ

  • 答:

    1. 小球の運動は直線的だから、座標は1次元で十分( \vec{r}=x)。そこで、ばねの自然長の先を  x=0、小球を放す時刻を  t=0 とし、鉛直下向きに  x 軸を定める

      単振動

    2. 小球に作用する力は鉛直下向き( x 軸正方向)の重力  mg と、ばねの復元力  -kx のみだから、運動方程式

       \displaystyle \begin{align}
m\ddot{x} &= mg - kx \\ \ddot{x} &= -\frac{k}{m}\left(x-\frac{mg}{k}\right)
\end{align}

      つり合いの位置は  x=mg/k である

    3. この微分方程式を解けば良いが、右辺に  x(t) が含まれていて、今までの様に両辺をそのまま積分することができない。そこで

       \displaystyle
 \frac{\mathrm{d}^2}{\mathrm{d}t^2}\left(x-\frac{mg}{k}\right) = -\frac{k}{m}\left(x-\frac{mg}{k}\right)

      と変形( mg/k は定数で、微分するとゼロになることに注意)し、つり合いの位置からの変位を  x'(t) = x(t)-mg/k と置くと

       \displaystyle
 \ddot{x}'(t) = -\frac{k}{m}x'(t)

      となり、「2度微分を行うと、元の関数を負の定数倍した関数になる」ことを表す微分方程式に還元される。ここで、高校数学 III の微分の知識で説明できる次の事実を用いる


      関数  f=f(s)微分方程式

       \displaystyle
 \frac{\mathrm{d}^2}{\mathrm{d}s^2}f(s) = -a^2f(s)

      を満たす( a は正の定数)時、その解は次の形を持つ

       \displaystyle
 f(s) = c\cos(as+\phi)

      また、その微分

       \displaystyle
 \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}s}f(s) = -ac\sin(as+\phi)

      ただし、 c, \phi はそれぞれ積分定数で、 c は正の実数、 \phi -\pi\lt\phi\le+\pi の実数とする


      上の式で  a=\sqrt{k/m} とすれば、解は

       \displaystyle \begin{align}
 x'(t) &= c\cos\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t+\phi\right) \\ \dot{x}'(t) &= -\sqrt{\frac{k}{m}}c\sin\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t+\phi\right)
\end{align}

      と表される。あとは、問題条件より  x'(0) = c\cos\phi = A かつ  \dot{x}'(0)=-\sqrt{k/m}c\sin\phi=0 が満たされれば良い。先ず、後者の式で  c は非ゼロの定数だから  \phi=0 であり、ゆえに前者の式は  c=A となる。結局、 x(t) = x'(t)+mg/k とその微分  \dot{x}(t) = \dot{x}'(t)

       \displaystyle \begin{align}
 x(t) &= A\cos\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t\right) + \frac{mg}{k} \\ \dot{x}(t) &= -\sqrt{\frac{k}{m}}A\sin\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t\right)
\end{align}

      である

空気抵抗のある落下

  • 問: 質量  m の小球を空中で静かに放したとき、その後の小球の運動を求めよ。
    ただし、小球はその速度に比例する空気抵抗(粘性抵抗)を受ける。比例係数を  \kappa とする

  • 答:

    1. 小球の運動は直線的だから、座標は1次元で十分( \vec{r}=x)。そこで、小球を放す位置を  x=0、時刻を  t=0 とし、鉛直下向きに  x 軸を定める

      空気抵抗のある落下

    2. 小球に作用する力は鉛直下向き( x 軸正方向)の重力  mg と、速度と反対向きの空気抵抗  -\kappa \dot{x} の2つのみである。よって運動方程式

       \displaystyle \begin{align}
m\ddot{x} &= mg - \kappa \dot{x} \\ \ddot{x} &= -\frac{\kappa}{m} (\dot{x}-\frac{mg}{\kappa}) 
\end{align}

       \dot{x}(t) = mg/\kappa の時、 \ddot{x}=0 となり加速が止まる。この速度を終端速度と呼ぶ。

    3. この微分方程式を解けば良いが、右辺に  \dot{x}(t) が含まれていて、両辺をそのまま積分することができない。そこで

       \displaystyle
 \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\left(\dot{x}-\frac{mg}{\kappa}\right) = -\frac{\kappa}{m}\left(\dot{x}-\frac{mg}{\kappa}\right)

      と変形( mg/\kappa は定数で、微分するとゼロになることに注意)し、 \dot{x}'(t) = \dot{x}(t)-mg/\kappa と置くと

       \displaystyle
 \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\dot{x}'(t) = -\frac{\kappa}{m}\dot{x}'(t)

      となり、「1度微分を行うと、元の関数を定数倍した関数になる」ことを表す微分方程式に還元される。ここで、高校数学 III の微分の知識で説明できる次の事実を用いる


      関数  f=f(s)微分方程式

       \displaystyle
 \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}s}f(s) = af(s)

      を満たす( a は定数)時、その解は次の形を持つ

       \displaystyle
 f(s) = c\exp(as)

      また、その積分

       \displaystyle
  \int f(s) \mathrm{d}s = \frac{1}{a}c\exp(as) + d

      ただし、 c, d積分定数である


      上の式で  a=-\kappa/m とすれば、解は

       \displaystyle \begin{align}
 \dot{x}'(t) &= c\exp\left(-\frac{\kappa}{m}t\right) \\ x'(t) &= \int \dot{x}'(t) \mathrm{d}t = -\frac{m}{\kappa}c\exp\left(-\frac{\kappa}{m}t\right) + d
\end{align}

      と表される。 \dot{x}(t) = \dot{x}'(t)+mg/\kappa とその積分  x(t) = x'(t) + (mg/\kappa)t に直せば

       \displaystyle \begin{align}
 \dot{x}(t) &= c\exp\left(-\frac{\kappa}{m}t\right)+\frac{mg}{\kappa} \\ x(t) &= -\frac{m}{\kappa}c\exp\left(-\frac{\kappa}{m}t\right) + \frac{mg}{\kappa}t + d
\end{align}

      あとは、問題条件より

       \displaystyle \begin{align}
 \dot{x}(0) &= c + \frac{mg}{\kappa} = 0 \\ x(0) &= -\frac{m}{\kappa}c  +d = 0
\end{align}

      が満たされれば良い。先ず、前者の式で  c=- mg/\kappa であり、ゆえに後者の式から  d=-(m/\kappa)^2g となる。結局

       \displaystyle \begin{align}
 x(t) &= \frac{mg}{\kappa}\left[t+\frac{m}{\kappa}\exp\left(-\frac{\kappa}{m}t\right)\right] -\left(\frac{m}{\kappa}\right)^2g \\ \dot{x}(t) &= \frac{mg}{\kappa}\left[1-\exp\left(-\frac{\kappa}{m}t\right)\right]
\end{align}

      である