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特殊相対性理論


特殊相対論について、自分なりに嚙み砕いた内容の備忘録です。


指導原理

特殊相対性理論の指導原理:

  1. 光速度不変の原理

    • 真空中の光速度は、どの慣性系で測定しても同一値になる
  2. 特殊相対性原理

    • すべての慣性系は等価である

固有時の導入

  いま、点光源  O を出た光が真空中を直進し、別の点  P に到達したとします。この光の速度は、光速度不変の原理の要請から、どの慣性系で測定しても同一値  c になります。従って、任意の慣性系で測定した光の変位 (\Delta x, \Delta y, \Delta z) と経過時間  \Delta t について、

 \displaystyle
\frac{\sqrt{(\Delta x)^2+(\Delta y)^2+(\Delta z)^2}}{\Delta t}=c

が必ず成り立ちます。そこで  \Delta w = c\Delta t とおき、式を次のように変形します。

 \displaystyle
(\Delta w)^2 - (\Delta x)^2 - (\Delta y)^2 - (\Delta z)^2 = 0

  この式を特殊相対性原理と見比べると、 =0 は条件として強すぎるようです。すべての慣性系が等価であるためには、左辺の式の値が不変であれば十分です。そこで、質量を持つ一般の物体の慣性運動について同様に  \Delta w, \Delta x, \Delta y, \Delta z を測定すると、次の式で定義される固有時  \Delta \tau が慣性系に依らない不変量になります。

 \displaystyle
\Delta \tau = \sqrt{(\Delta w)^2 - (\Delta x)^2 - (\Delta y)^2 - (\Delta z)^2} = \sqrt{1-v^2}\,\Delta w \tag{1}

ただし、 v = \sqrt{(\Delta x)^2 + (\Delta y)^2 + (\Delta z)^2} / \Delta w は、真空中の光速度  c に対する物体の速度比です(以降、単に「速度比」と呼びます)。式(1)で、 \Delta w と速度比  v は慣性系に依りますが、固有時  \Delta \tau は慣性系に依りません。

固有時  \Delta \tau は慣性系に依らない

ローレンツ変換

  固有時が不変量であることからローレンツ変換を導出し、その帰結として、慣性運動する物体のローレンツ収縮時間の遅れ(ウラシマ効果を導きます。また、これらの効果が顕著に現れる有名な例として大気上層で生成されたミューオンが崩壊前に地表まで到達する現象を付録に挙げます。

導出

  式(1)の固有時  \Delta \tau は、3次元ユークリッド距離  \Delta l=\sqrt{(\Delta x)^2 + (\Delta y)^2 + (\Delta z)^2} を使って

 \displaystyle
(\Delta w)^2 - (\Delta l)^2 = (\Delta \tau)^2

と書けます。そこで両辺を  (\Delta \tau)^2 で割ると

 \displaystyle
\left(\frac{\Delta w}{\Delta \tau}\right)^2 - \left(\frac{\Delta l}{\Delta \tau}\right)^2 = 1

を得ます。これはまさに双曲線の方程式ですから、適当なパラメータ  \theta を使って

 \displaystyle
\begin{align}
\frac{\Delta w}{\Delta \tau} &= \cosh \theta \\\
\frac{\Delta l}{\Delta \tau} &= \sinh \theta
\end{align}

と表せます。ここで、式(1)より

 \displaystyle
\cosh \theta = \frac{\Delta w}{\Delta \tau} = \frac{1}{\sqrt{1-v^2}}

ですから、

 \displaystyle
\frac{\Delta l}{\Delta \tau} = \sinh \theta = \sqrt{\cosh^2 \theta - 1} = \frac{v}{\sqrt{1-v^2}}

となります。
  以上より、基準慣性系  0 と、これに対して速度比  v で動く慣性系  1 を考えると、両者の間の変換は双曲線関数の加法定理で与えられます。

 \displaystyle
\begin{align}
\frac{\Delta w_1}{\Delta \tau} = \cosh \theta_1 &= \cosh (\theta_0 - \theta) = \frac{1}{\sqrt{1-v^2}}\frac{\Delta w_0}{\Delta \tau} - \frac{v}{\sqrt{1-v^2}}\frac{\Delta l_0}{\Delta \tau} \\\ 
\frac{\Delta l_1}{\Delta \tau} = \sinh \theta_1 &= \sinh (\theta_0 - \theta) = - \frac{v}{\sqrt{1-v^2}}\frac{\Delta w_0}{\Delta \tau} + \frac{1}{\sqrt{1-v^2}}\frac{\Delta l_0}{\Delta \tau}
\end{align}

添え字の  0,1 は、それぞれ慣性系  0,1 での測定量であることを表しています。最後に、分母の  \Delta \tau をはらってローレンツ変換を得ます。

 \displaystyle
\begin{pmatrix}
\Delta w_1 \\
\Delta l_1
\end{pmatrix}
= \frac{1}{\sqrt{1-v^2}}
\begin{pmatrix}
1 & -v \\
-v & 1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\Delta w_0 \\
\Delta l_0
\end{pmatrix}
\tag{2a}

逆行列をとれば、逆変換を得ます。

 \displaystyle
\begin{pmatrix}
\Delta w_0 \\
\Delta l_0
\end{pmatrix}
= \frac{1}{\sqrt{1-v^2}}
\begin{pmatrix}
1 & v \\
v & 1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\Delta w_1 \\
\Delta l_1
\end{pmatrix}
\tag{2b}


ローレンツ収縮

  慣性系  1 上で2つの定点を考え、その間の距離を  \Delta l_1 とおきます。この2点は、基準慣性系  0 上では速度比  v で移動する動点となり、その間の距離  \Delta l_0 は2点の同時刻  \Delta w_0 = 0 において測定されます。したがって、ローレンツ変換の式(2a)から

 \displaystyle
\Delta l_0 = \sqrt{1-v^2} \, \Delta l_1 \tag{3a}

となります。この式から、慣性運動する物体の長さについて「物体が速度比  v で動いて見える慣性系で測定される長さ  \Delta l_0 は、物体が静止して見える慣性系で測定される長さ  \Delta l_1 より短くなる」と言えます。このように、運動する物体が運動方向に縮んで見える現象のことを、ローレンツ収縮と呼びます。

時間の遅れ(ウラシマ効果

  慣性系  1 上の定点で2つの時刻を計測し、その時間間隔を  \Delta w_1 とおきます。慣性系  1 では点は移動しません ( \Delta l_1=0) ので、基準慣性系  0 上で測定される時間間隔  \Delta w_0 は、ローレンツ変換の式(2b)から

 \displaystyle
\Delta w_0 = \frac{1}{\sqrt{1-v^2}} \, \Delta w_1

すなわち

 \displaystyle
\Delta t_0 = \frac{1}{\sqrt{1-v^2}} \, \Delta t_1 \tag{3b}

となります。この式から、慣性運動する物体に流れる時間について「物体が速度比  v で動いて見える慣性系で測定される時間  \Delta t_0 は、物体が静止して見える慣性系で測定される時間  \Delta t_1 より長くなる」ことが分かります。すなわち、運動する物体の時間の流れは遅れて見えます。この現象は、昔話の「浦島太郎」になぞらえて、俗にウラシマ効果と呼ばれています。

付録

双曲線関数の加法定理

公式

 \displaystyle
\cosh (\theta_0 - \theta) = \cosh\theta\cosh\theta_0 - \sinh\theta\sinh\theta_0
 \displaystyle
\sinh (\theta_0 - \theta) = - \sinh\theta\cosh\theta_0 + \cosh\theta\sinh\theta_0

導出

  指数関数  \exp x を、偶関数と奇関数の和に分解します。

 \displaystyle
\exp x = \frac{\exp x +\exp(-x)}{2} + \frac{\exp x -\exp(-x)}{2}

右辺を見ると、偶関数の項が双曲線余弦関数  \cosh x奇関数の項が双曲線正弦関数  \sinh x になっています。すなわち、

 \displaystyle
\exp x = \cosh x + \sinh x

です。これを踏まえ、指数関数  \exp (\theta_0 - \theta) を次のように展開します。

 \displaystyle
\begin{align}
\exp (\theta_0 - \theta) &= \exp (-\theta) \, \exp \theta_0 \\
&= (\cosh \theta - \sinh \theta)(\cosh \theta_0 + \sinh \theta_0) \\
&= (\cosh \theta \cosh \theta_0 - \sinh \theta \sinh \theta_0) + (- \sinh \theta \cosh \theta_0 + \cosh \theta \sinh \theta_0)
\end{align}

最後の式では、偶関数の項と奇関数の項を分けて  () で括りました。最初に見た通り、偶関数の項は  \cosh(\theta_0 - \theta)、奇関数の項は  \sinh(\theta_0 - \theta) に相当しますので、これで双曲線関数の加法定理が導出されました。
  なお、以上の導出の流れは、オイラーの公式を利用した三角関数の加法定理の導出の流れと全く同じです。

大気上層で生成されたミューオンが崩壊前に地表まで到達する現象

  地球大気に突入した高エネルギー宇宙線は、空気中の原子と衝突して亜光速(速度比 v\sim0.995)のミューオンを生成します。このミューオン半減期 \Delta t_{\textrm{half}}=2.20\mu\textrm{s} と非常に短く、その一部は地表まで到達する前に崩壊しますが、それでも地表では  1\textrm{cm}^2 あたり1分間に1回という高い頻度でミューオンが検出されます。
  絶対時間・絶対空間を仮定すると、これはとても奇異な事態です。なぜなら、ミューオンがその半減期の内に進む距離は

 \displaystyle
vc\Delta t_{\textrm{half}}\sim 0.995\cdot (3.00\times 10^8 \textrm{m/s})\cdot (2.20\times 10^{-6}\textrm{s}) \sim 0.657\text{km}

であり、地表までの距離  h_{\textrm{atm}} \sim 6.00\textrm{km} とします)を進む内に全体の大部分、

 \displaystyle
1 - \left(\frac{1}{2}\right)^{6.00\textrm{km}/0.657\textrm{km}} \sim 99.8\%

が崩壊する計算になるためです。
  特殊相対論の効果を考えると、この問題は解消されます。ミューオンに固定した(=ミューオンが静止して見える)慣性系で考えれば「地表までの距離のローレンツ収縮」、地表に固定した(=地表が静止して見える)慣性系で考えれば「ミューオンの時間の遅れ(ウラシマ効果)」として説明されます。勿論、どちらの立場をとっても全く同じ結果が導かれます。

ミューオンに固定した慣性系での説明

ミューオンに固定した慣性系では、静止するミューオンに地表が速度比  v で接近します。この時、地表までの距離はローレンツ収縮の式(3a)より

 \displaystyle
\sqrt{1-v^2} \, h_{\textrm{atm}} \sim \sqrt{1-0.995^2}\cdot 6.00\textrm{km} \sim 0.600\textrm{km}

まで縮みます。したがって、地表に到達するまでに崩壊するミューオンは全体の

 \displaystyle
1 - \left(\frac{1}{2}\right)^{0.600\textrm{km}/0.657\textrm{km}} \sim 46.9\%

と、半分程度に過ぎません。

地表に固定した慣性系での説明

  地表に固定した慣性系では、静止する地表にミューオンが速度比  v で接近します。この時、ミューオンの寿命は時間の遅れ(ウラシマ効果)の式(3b)より

 \displaystyle
\frac{1}{\sqrt{1-v^2}} \, \Delta t_{\textrm{half}} \sim \frac{1}{\sqrt{1-0.995^2}} \, 2.20\mu\textrm{s} \sim 22.0 \mu\textrm{s}

まで伸びます。この間にミューオンが進む距離は、 0.995c を乗じて  \sim 6.57\textrm{km} となります。したがって、地表に到達するまでに崩壊するミューオンは全体の

 \displaystyle
1 - \left(\frac{1}{2}\right)^{6.00\textrm{km}/6.57\textrm{km}} \sim 46.9\%

と、半分程度に過ぎません。

相対速度(速度の合成)

  相対速度は、単純に速度ベクトルの差にはなりません。例えば、ある慣性系において  x 軸上を速度  v_0, v_1 で動く2つの質点  0, 1 を考えると、質点  0 から見た質点  1 の相対速度  v_{01} v_{01} = v_1 - v_0 とはなりません。
  実は速度  v は、 \theta を使って次のように表されます。

 \displaystyle
v = \frac{\Delta l}{\Delta w} = \frac{\Delta l / \Delta \tau}{\Delta w / \Delta \tau} = \frac{\sinh \theta}{\cosh \theta} = \tanh \theta

したがって、相対速度  v_{01} は双曲線正接関数の加法定理で与えられます。

 \displaystyle
v_{01} = \tanh (\theta_1 - \theta_0) = \frac{\tanh \theta_1 - \tanh \theta_0}{1 - \tanh \theta_1 \tanh \theta_0} = \frac{v_1 - v_0}{1 - v_1 v_0}

 v_1 - v_0 に、因子  1 / (1 - v_1 v_0) がかかっていることが分かります。光速度より十分に遅い運動  (1 \gg v_0, v_1) では、この因子がほぼ1となるため、相対速度を近似的に  v_1 - v_0 と考えて良いわけです。
  また、光速度  1 を速度  v で遠ざかりながら測定すると、相対速度  v_{01}

 \displaystyle
v_{01} = \frac{1 - (-v)}{1 - 1 (-v)} = 1

となり、全く変わらないことが分かります。しかして光速度不変です。光速度は有限値ですが、どんな速度と合成しても変わらないという意味で、速度の無限大のように振る舞います。